No.5 「通底する 」

今年は自分の研究を大きく跳ばすことになった年である。その原因となったある依頼に応えるために、6月、8月、9月と会場を違えて同じ内容の講義を3回行った。先週が9月の回であり、無事に終えることができた。受講者は看護管理者(看護師をマネジメントする役職の方々)であった。日本看護協会のカリキュラムによる認定研修である。

今年の初め頃に講義の依頼を受けた時、その依頼の内容の意味することが、組織とリーダーシップを研究する者にとって非常に大きな挑戦であることにすぐ気づいた。自分は病院組織の研究者でもないし、病院経営の専門家でもない。しかしこの講義で何を教えるかの依頼を受けた言葉の中に次の意味が入っていたことが、企業での組織とリーダーシップの研究に通底するものを直感させた。「日々の看護の現場から目を上げて見渡したときに見るべきものを講義して欲しい。」

病院が医療と看護の2つの種類の活動で成り立っていることを知ってる科学者であれば、この求めに応える講義は極めて難しいものが要求されるのに気づく。医療とは最先端科学の集約であり、その科学とは要素還元主義の科学である。いっぽう看護とは病に苦しむ患者の側にいて患者が治療を受けつつ生きることのすべてを含む。この依頼に応える講義とは、医療と看護が現代の科学の水準として未だ統合されていないことを正面から説明せねばならず、統合されることがあるならどのようなことであるかを議論せねばならない。看護師とは、要素還元主義の科学の最先端にいる医師と、生きることを必死で行っている患者の間にいて、患者を支える。そこには要素還元主義の科学が到底たどり着いていないもっと深くもっと広い命の活動がある。日々の看護の現場から目を上げて見ねばならないのは医療と看護が統合できていない真実である。これを講義でどのようにとりあげるのか。

この問題こそ、要素還元主義で経営研究するだけでは生存可能/持続可能な経営のあり方を提示できないことが自覚されるようになった今日の経営研究の大問題に通底する。この講義を準備した数ヶ月間、二人の博士課程ゼミ卒業生(笠原一絵君、八木陽一郎君)が力を貸してくれた。一人では研究できない課題を持ったとき、自分の研究の考え方と価値観を知ってくれている若い卒業生の力を得ることができる幸せを感じ、彼等に感謝した。