MBAの授業であっても、経営実務者が受講生である授業であっても、ほとんど必ず質問されることがある。人とのコミュニケーションはどのようにするのがよいか。それほどにコミュニケーションは、経営組織おいて重要課題であるし、人間集団の中での人の行為として難しいものの代表であろう。
コミュニケーションの中でも、人を説得し、こちらを受け入れてもらうためにどのようなことをするのがよいかは、研究としても大きな課題である。この分野について非常によく書かれている本が「影響力の武器」(チャルディーニ著、第2版、誠信書房)である。この本は私自身のリーダーシップ研究にも大きな影響を与えた。相手を得心させることのないリーダーシップは存在しないからである。著者のチャルディーにはもともと社会心理学の大学教授であったが、その後、説得のコミュニケーションスキルのコンサルタントとして大変有名になった。
「影響力の武器」はもともと大学の説得に関する社会心理学の教科書であるので、それほど読みやすいとは言えない。そこで質問を受けた時に紹介するもっと手軽な本として、「NLPコミュニケーション術 (アスカビジネス)」 (山崎啓支著、明日香山出版社)をあげることがある。もともとNLP(Neuro Linguistic Programing、神経言語プログラミング)は1970年代にアメリカの著名な心理療法家の治療コミュニケーション技術を解析して構成された、一種の論理学のような構造を持っているコミュニケーション技術の体系である。一言でいえば、人に信頼感をもってもらい、誘導していくためのコミュニケーション技術である。今日までの間にNLPは様々に適用され、上のような読みやすい本も書かれるようになった。
人の説得や、信頼感を持ってもらうこと、そして誘導していくことは、ある種の心理技術として成立している。上に書いたような書物がそれを証明している。しかしコミュニケーションをとるこちら側に人間的な価値がないと、相手側への影響の度合いは高まらない。コミュニケーションの技術は開発されてきているけれど、人間の価値を高めるための技術開発はまだできていない。そもそもそのような技術開発はあり得ないのかもしれない。