No.16 「研究と教育」

ケースメソッドに限ってではないが、教えること(つまり教える内容)について、その教師自身が研究蓄積をしてきているかどうかは、かなり大きな要因である。極端な話し、教え方が不十分であっても、教える内容に深みがあるなら、学生は興味を持って学ぼうとする。言い方は悪いが、他からもらってきた内容をそのまま授業すると(ようするに教科書をトレースするだけだと)、学生はすぐに見破る。

しかし、すべての教員が等しく研究と教育を行える環境にあるかと言えば、非常に難しい。もちろん本人の研究能力自体も考慮に入れる必要があるであろうが、教育に割く時間がとても多い(授業負荷が大きい)場合は、これが問題となる。この場合、優秀な教科書があるととても助かる。アメリカの大学教育の世界では、自らは研究をしないが優秀な教科書を書くことを専門としている教員がいる。筆者が翻訳した「組織行動のマネジメント」の著者ロビンス氏はもともとこのような大学教員であった。日本でもこのような位置づけの教員職があったなら、もっともっと優秀な教科書が書かれているのではないかと思う。

一方、ビジネススクールという学校では、実務家(つまり研究者でも教育者でもない人物)を講師に迎えることが少なくない。最前線のビジネスの現場で今動いているものを肌感覚でつかみ経験していると、具体的に自分の体験を説明することで、講師が語るものの見方や考え方とともに、経験でしか語れない何かがしみでてくる。ただし、重要なのは、その講師が自分の経験を、単に経験にしておくのでなく、より高い次元から見直して汎用化できるかどうかにある。これも大学人の教育と研究の関係と同じなのではないかと思う。