孫娘のことを題材に書くのは「教授からのメッセージ」の項なのであるが、きょうは「知的導火線の中で書くことにした。それは「認知意味論―言語から見た人間の心」(レイコフ著、紀伊国屋書店、1993) を即座に思い起こさせる出来事が孫娘との会話の中であったからである。
レイコフの認知意味論の大きなポイントの一つは、人間が言語を使ってもの事や身の回りを認識する時に脳機能が行う「カテゴリ化」についてである。例えば、もの事の呼び名である名詞単語は、必ずあるカテゴリが形成されて、それに所属させることで認識が形成される。ちょうど、何らかの共通するものを持つ要素を集めて集合を作るという意味で、数学の集合論のような操作に近い。
孫娘は2歳と5か月になり、言葉をよくしゃべる。最近起きた出来事とはつぎのようなことだ。私(つまり、じっちゃん)と遊んでいて、私を呼ぼうとして口から出てきた言葉はつぎの4つの人称代名詞の連続であった。「ママ、パパ、あーちゃん、じっちゃん」。つまり3人違う人の呼び名を言った後でやっとじっちゃんが出てきた。もちろんこれは呼び間違えを3回やっただけである。でも認知心理学が自分の専門の一部に入っている者としては単に呼び間違えとして済ますわけにはいかない。
わずか2歳5か月の女児の頭の中には家族を構成する人間のカテゴリができていて、うち大人だけのカテゴリがある。じっちゃんを呼ぼうとして、どうしても呼ぶ頻度の高いものから口が滑って呼んでしまう。ようするにじっちゃんは、大人の家族の中で接する頻度があーちゃん(ばあちゃん)より低く、最低なのだ。これら口をついて出た4人の名前の中に、自分の名前も妹の名前も入っていないことが(つまり、これは子供というカテゴリに入る名前である)、彼女の頭の中でカテゴリ化として詳細化が進んでいることの証拠であろう。
レイコフの著作の原題は「Women, Fire, and Dangerous Things: What Categories Reveal About the Mind」である。これはある部族のあるカテゴリに入る3つの名詞だそうだ。日本語でいうと「地震、雷、火事、おやじ」に相当するのであろう。