教授からのメッセージ

年の功で、最近は若い人々との共同作業が増えた。彼等と研究会合などで議論すると、きまって言われることがある。「先生の頭の中はいったいどうなっているのでしょうか。」議論の中で思いもよらない発想やとんでもない例え話を私がもちだすと、いつもこの返事がもどる。私の頭の中がどうなっているか分かってもらうには、折々に私が何に目を向け、興味を持ち、どんな考え方で、どんな発想を持ったか、を書き出してみればよい。それを「教授からのメッセージ」として綴っていく。

この項で政治について書くことはしないようにしてきているのだが、年の終わりにどうしても書くことにした。つい数日前に報じられた民主党での消費税増税について方針決定した会議のことである。

組織研究者にとって会議という形態の組織のダイナミクスは興味深い。しかし今回の民主党のあの会議は、「先生」と呼ばれる人々のなすことなのかと驚きつつ、人のなすこととして同じかという気持ちにもなった。会議のその場にいたわけでなく数回のニュース報道を聞いただけであるが。

その報道で二つ興味を持った。一つめは、執行部側の提案に「反対」する人々ばかり発言にたち、あたかも時間を意図的に空費させているかのようであったこと。そのような意図がありありであったと報道する新聞記事も読んだ。国の将来を左右する重大意思決定の一部となる会議で時間空費をねらう政治家が多数いたことに政治家も人の子と同情するやら情けなくなるやら。(この現象は、「先生」と呼ばれる人々が作る大学の教授会という組織でも見ることがある。)

二つめは、野田総理の提案とあったが、反対派を納得させるために消費税増税の実施時期を半年遅らせ、現職の衆議院任期の後としたこと。反対派の反対の真の意図はこれか。あきれることしきり。政治家が責任を持つのは議員の任期中であるかと思っていたが、責任を取りたくないので任期後になるよう議決したとは、やはり政治家も人の子と同情するやら情けなくなるやら。

この会議にはたくさんのメディアが入って報道用に録音録画していた。研究者として興味を持つのは、なぜ上のようなダイナミクスが起きたのか、この音声と動画の記録を分析することである。

幼児虐待のニュースが増える傾向にあるが、ひょっとすると当たり前になりすぎてニュースにならなくなる時期が来るか、と危惧している。次のことが世間でどれほど広く知られているか詳しくないが、幼児虐待は母から娘に伝播する現象だといわれている。つらいことである。

母娘間で伝播すると言うことは二つの理由が考えられる。経験か遺伝かである。このどちらが正しいかをサルの母娘の観察で解明した研究があるそうだ。虐待傾向のある母サルと、ない母サル。それぞれの出産直後の娘2匹を、その母に直接育てさせる組みと、他方に育てさせる組みを作る。それぞれの母はそれぞれの子供をどのように育てるか観察した。その後、そだった娘が母になった時に出産した娘をどのように扱うかも観察した。この観察研究では、長い時間をかけて事例の数を増やし、精密な組み合わせをとることで、経験によるのか遺伝によるのかの科学的結論を出した。答えは経験であった。つらい事実であるが、母に虐待されて育った娘は、自らが母となった時に娘を虐待する傾向を強める。

この事実は、母となる人物、もっと精密にいえば、虐待を生き延びた後の女性に、教育的な方法で虐待を減らそうとしても効果がないことを示している。となると効果があるのは虐待を阻止する外からの介入ということになる。この方法が日本では遅れている。

以前、この項に書いた私の車が、夏前にふたたび危険な状況となり、ついに新しい車と交換することを決めた。15年間で17万キロ近くまで乗った愛車であった。

新しい車は私にとって初めてのドイツ車である。選択基準は四駆のスポーツクーペ。この基準で探した結果である。発注したのが6月。ドイツで生産され、船に乗って10月中旬に日本に到着。最終点検の後、10月末、つまり来週に我が家に到着する。

車は多すぎる年数を乗ると故障の質が深まり、毎日の運転には危険な水準になることを今回身をもって経験した。この新しい車もそうなる前まで、せめて10年間は乗るつもり。色は赤。

日本のホテル企業が、中国のマカオでリゾートホテル群の1つとして、カジノを含むホテル経営を始めたので、現地の様子を見に行ってきた。マカオは10年程前に訪れたことがあり、その頃はまだ暗いイメージのカジノのあるホテル地域があり、一般観光客は近寄らなかったようだった。今は世界遺産があり、たくさんの観光客が世界から訪れる。もちろん中国からの観光客が圧倒的に多い。子供のいる家族づれも多い。このような客が今回の日本のホテルにはたくさん泊まっていた。大きな波のあるプールで子供たちが遊ぶ。アメリカ的なファミリーリゾートホテルとよく似ているが、大人たちはカジノでも遊べる。

このホテルの近くにはすでに先行するカジノのある大きなリゾートホテルがあるが、そちらに比べるとどこか違う。最初に気づいたのは建物の中の照明の明るさである。日本のホテルの方がはるかに明るい。カジノフロアもとても明るく、清潔で、きもちよい。カジノと言えば、夜の世界のイメージがあるが、ここはそれをめざしていない。なんでも建物のコンセプト自体、アメリカ系ではないとのことであった。

ヒヤリングさせていただいた日本人マネジャーの方が、今年の様子を見て、来年の様子も見ることで、急速に発展するマカオの新しい方向性がわかるはず、とおっしゃられていた。

兼務で学生相談室カウンセラーをしている年数がもう随分と長くなった。来談する学生の相談希望事項はさまざまだが、中でも、やはり自分のコミュニケーション能力に不十分さがあり、何とか改善したいという相談内容になることが少なくない。このような不十分さを意識して来談する学生の比率は、長年を振り返ると、はやり増えているように思う。でも、そのような問題を持つようになる学生の背景に家族関係の問題が潜んでいることについては随分と前から指摘されているので、増加しているというのは今に始まったことではないのであろう。

博士課程の卒業生が大学の教員をしていて、学部生との授業応対で、学生がコミュニケーションの問題を持っている現実に直面することが多い、という話しを持ってくるようになった。このことも何も今に始まったことではないのだが、最近の彼等との話しで、学部教育で教師側がしっかり対応策を持っていないと、学生をコミュニケーション力不足のまま卒業させる危険が増えているように思うようになった。特に、大学には、卒業後のキャリアを自覚させ、自分でキャリアを構築できるようにするための科目、というのがよく設置されるようになった。とてもよいことである。でも実態は、そのクラスで学生のコミュニケーション力不足に教師が直面してしまい、その授業の本筋の手前で学生のコミュニケーションスキルをどう向上させるかを優先する授業に変えることが多いとのこと。その背後に学生の家族関係の問題が潜んでいて、授業を担当する教員にその側面を含めてコミュニケーション力向上の授業が組めるようでないとならない。

教員のたまごを送り出す大学院の教師として、以前からわかっていたこととは言え、やはりしっかりやっていかねばと思う。

大学3年生の就職活動もそろそろ山を越える。

学生の就活の様子は毎年と変わらないのだが、今後5年、10年と先を見ると、大学生の絶対数が伸びないので、採用企業側からすると、随分様相が変わるはずである。
もう一度正確に計算してみたいのだが、以前次のような数字を計算したことがある。ある一定規模以上の日本国内の全企業が1年間に採用する大卒新卒者の総数について、ここ10年くらいの平均値を出す。次に人口統計を使って、10年後の日本の大卒者の総数を計算する。この二つの値はおおよそ同じになったような記憶がある。(もちろん、もう一度計算してみないといけないが。)
この記憶が正しいと、10年後は、そのような一定規模以上の企業が大卒者を全員採用してようやく足りる。つまり大卒にとって就職全入時代になる。
企業経営としてこれはまずい。優秀者であるかどうかを問わないで新卒者を採用せざるをえない、とはいかない。さりとて母集団に限りがある。
この状態において採らざるを得ない方向はいくつかあるだろう。今話題になっている外国人採用。以前から行っている中途採用。定年者の延長雇用ないし再雇用、などなど。いずれの方向も将来の企業を支える基幹社員、つまり経営責任者層の人材となっていく者をどのように採用し、育成するかにおいて大きな問題を引き起こす。この問題は終身雇用をどこまで前提にしたまま日本企業が存続できるかという問題とも関連する。
この問題を考えるためにも、急いで上に書いた計算をもう一度やらねばと思う。

 

何かを学ばせる時に教科書が使われる。教科書自体のあり様も、何を学ばせるかによって異なるはずであるが、そのことについて丁寧な議論がなされてきてはいないように思い、今回はこの点について書いてみる。

何がしかの知識を学ばせる(記憶させると書く方が正確かもしれない)のであれば、その知識をよく整理し、体系だてて教科書を書かねばならない。学ぶ者は教科書を読んで学ぶのであるから、読み進むことでその知識が獲得できるように書かれている必要がある。

私の専門分野である経営学について言うならば、経営学の研究が構築してきた各種理論を分かりやすく順序だてて記述すると、良き「経営学」の教科書が出来上がる。経営学理論を学び、経営学者になるのであれば、これは良き教科書となる。

はたしてこれが良き「経営」の教科書となるか、と言えば答えはあやしい。かれこれ20年以上前になるが、ある企業の社長と話していて、痛い点を突かれたことがある。「経営学を知らない立派な経営者は少なくないが、経営を知らない経営学者が多いのは困ったものです。」経営学の教科書は経営学を教えるのには向いているのだが、経営を教えるのには向いていない。となると経営という実技を伴う人間活動を教科書に書くことをせねばならない。

このような問題意識でいくつかの「経営」の教科書を読む機会があった。やはりこの分野では今もって米国が進んでいる。とくに次の本は秀逸であった。Fundamentals of Management (7th Edition)(Robbins, Decenzo and Coulter. 2011. Prentice Hall) これは大学学部生のための教科書であり、卒業後の職業活動で必ず触れるであろう上司のマネジメントはどのようなものであり、そして遠からず自らもマネジメントするのであり、それはどのようなものか。これを学部在学中に学ばせるために書かれている。このような基本コンセプトで書かれている経営つまりマネジメントの実際と実技についての教科書は、我が国ではまだ書かれていないのではないかと思った。

今に始まったことではないが、企業のトップ者をどのように育てるべきか、どのように選抜すべきか、は大きな課題である。経営研究の分野には古くて新しい課題がいくつかあるが、この課題もその中に含まれる。もちろん企業トップ者の育成や選抜に私自身が直接かかわることはめったにない。でも研究者としては、要所要時で社長が交代する報道を注意を持って読むことを続けているし、新任なられた方がその後の時の経緯とともに手腕を発揮されることもあるし、そのプロセスでそれなりにご苦労をされているようだということも知ることがある。

このような想いを毎年しつつ、最近は、次のことがかなり正しいだろうと思うようになった。「準備万端整って社長になる人はいない。」つまり経営トップ者になるに向けて何がしか育成やら準備やらがご本人に生じてきたとして、それは事前準備として「万端」にはならない。就任してから身に付くこともある。おそらくたくさんある。もののどおりとして、きっと、これは何事にもあてはまるのだろうとおもう。

携帯を買い替えた。色は「赤」。フェラーリの赤を連想して、この機種に決めた。日本色の分類ではおそらく鮮やかな朱色にはいると思うが、ヒンジから動体にかけて黒色の太いラインでまとめてあり、日本のデザインイメージではない。真っ先に連想したのが自動車のフェラーリ、そしてその赤。還暦過ぎた初老の男がこの鮮やかな赤の携帯を持つと目立つだろうなあ、とも思ったし、ときどき赤を身につける自分としてはそれほど不自然ではない、とも思った。

この買い替えは自分が携帯を持つようになって初めての交換だ。前の機種はそもそも軽いことと、デザインがおしゃれであることで、持ち続けた。何度も何度も何度も機種交換の案内が電話会社から来たが、この理由を越える動機付けになるものがなく、持ち続けた。今回、交換した最大の動機付けは、前の機種が海外へ行った時に使えないことである。通信技術の進歩について行かれない機種となり、その不便さに困った。
 
店頭での機種選定での最初の基準はやはり軽さ。次はワンセグのテレビが見られること。今回の地震で携帯の電話、そしてweb通信、は無力であることを再確認した。なので情報を入手する方法としてテレビが見られることは大きな要素である。三つ目が色。この赤はいい赤だと思う。
 
022.jpgNHKの白熱教室JAPAN用の4回の授業の収録を終えて、やれやれとなったのが2月中旬であった。このプロジェクトの準備に入ったのが昨年10月で、本来の今年度後半(昨年9月から)のサバティカル(研究休暇)は吹っ飛んだ状況となっていたが、ようやく延期していた海外調査旅行を実行に移した(ハワイ地域の観光産業の調査で、特に日本の旅行会社のハワイ地域での適応行動をヒヤリングする。ここから、北海道に焦点を当てている中国の観光会社を比較に考えたいと企んでいる)。
 
ホノルル空港に着いてレンタカー会社のカウンターで手続きを終えたとき、急にがっちりした体格の若い男性から「タカギセンセイ!」と声をかけられた。日本語が十分できる日系人のようであった。「センセイノジュギョウ、テレビデミマシタ。オワリノ、ブッキョウノコトバガ、トテモヨカッタデス。」横須賀基地勤務の米軍兵士とのことで、休暇でハワイへ戻ったところだそうであった。2月13日放送の白熱教室JAPANの第2回授業の終了時に「なるようになる」という良寛上人の言葉にふれた。この放送を彼は横須賀で見たのだ。
 
彼が私を見つけたのは、放送からほんの数日しかたっていないホノルル空港である。全国放送の力は偉大である、とあらためて思った。
(前回書いた車の故障は、無事修理ができて、再び走行キロ数を延ばすことに挑戦している。)